
こんにちは、教員の土田です。
最近、2年生からこんなことを聞かれました。 「土田先生が学生の時って、こんなにアプリ作ってたんですか?」
正直に言います。そんなわけないです。 生成AIもない時代に、今みたいなペースでポンポン作るなんて物理的に無理でした。
じゃあなんで今、みなさんにはここまで作ってもらっているのか。 それは意地悪でもなんでもなく、「時代が変わって、戦い方のルールが変わったから」です。
昔話
私が大学1年生のときはJavaを習っていましたが、やったことといえば「for文等の変数の動きを紙とペンで追う」ことでした。 2年生の実習課題は「電卓アプリ」だったかと思います。それもゼロから書くのではなく、ネットのコードを継ぎ接ぎして「へぇ、こう動くんだー」と確認する程度でした。
当時はそれで「難しいことをやっている感」がありましたが、今の感覚で見ると、さすがに時代遅れと言わざるを得ません。
もちろん、仕組みを理解するために一度泥臭くやる価値はあります。 でも今は、
- 繰り返し実行したい(for文活用) → ChatGPTに聞けば数秒
- コードの意味を知りたい → ChatGPTに貼れば即解説
という時代です。「ググる力」すら、もはや一昔前のスキルになりつつあります。 AIに頼めば一瞬で完成することに時間をかけすぎることに、私はもう以前ほどの価値を感じていません。
だから、課題のハードルは「自然と」上がる
AIが前提になった以上、「AIを使えば一瞬で終わる課題」を出しても意味がありません。 だから私の授業では、「AI活用前提」で、AIをどう使いこなすかまで含めて問う課題を設定しています。
「辛い」「量が多い」と感じる人もいるでしょう。 でもそれは、みなさんを潰したいからではなく、「AI時代にちゃんと生き残れる『つくる力』を、今のうちに身につけてほしい」という、私なりのエールです。
ツールは変わります。でも「つくる人」は残ります。 「コードの意味を全部暗記している」ことの価値が下がる代わりに、これからは以下の力が問われると思います。
- 何を作りたいのか= モノ・機能(Output)
- どんな体験を生みたいのか= コト・価値・感情(Outcome)
- そのためにAIとどう協力するか
「仕組みを知っている」ことと、「価値あるものを創れる」ことは別です。 だからこの授業では、「手を動かしながら、答えがはっきり見えないところを自分で切り開いていく力」、言い換えれば「AIと一緒にものづくりする筋力」を鍛えてほしいと思っています。
つべこべ言わずに「数」を作ろう
乱暴な言い方ですが、「つべこべ言わずに、まずは数を作れ」ってことです。
「なんかよくわからないけど動いた!」「AIと喧嘩しながらだけど面白いものができた!」
この体験の「数」が、AIへの指示出しの勘を養い、「ここまではAI、ここからは自分」という境界線を見極める力になります。 今はまだ、AIとの正しい付き合い方を誰も知らない時代です。だからこそ、体系化されていない「最前線」を開拓できるみなさんは、めちゃくちゃ面白いポジションにいるはずなんですよ。
また、「わからない」と感じた瞬間に手が止まる人が一定数いるようです。 でも、研究も開発も、基本的には「未知のこと」しかやっていません。
最初から正解ルートが見えているなら、世の中にはもっと簡単に新技術や新サービスが量産されているはずです。そうなっていないのは、みんな泥臭く試行錯誤しているからだと思います。 だから土田の講義では、「わかってから手を動かす」のではなく、「手を動かしながら考える」ことを、自分の標準モードにしてほしいなと思っています。そのための練習台として課題、特に頭と手を動かさないと解けない発展課題を用意しています。
「専門」は探すな、作れ。
「文情の専門が何なのかわからない」という悩みもよく耳にします。 でも、専門は「見つける」ものじゃなくて、「作る」ものではないでしょうか。
実際、私が学生時代に履修した科目は大体以下でして、

「電磁気学」「量子物理工学」「電力工学」……と、今の私の研究(ダンス×情報)に直接そのまま使える科目はほぼありません。 今、私が授業で教えていることや研究で使う技術は、ほとんど独学で身につけました。
だから、「今、大学でこれを学んでいるから、将来はこれにならなきゃいけない」なんて思う必要は1ミリもありません。 私の授業での「プロトタイピング」の経験に、みなさんが持つ「人文知」や「データサイエンス」を掛け合わせれば、間違いなくつよい専門性になります。 既存のラベルに自分をはめ込もうとせず、「自分の専門は自分で作る」くらいの気概でいて欲しいなと思います。
最後に(ちょっと宣伝)
そんな「専門を自分で作る」「異分野と掛け合わせる」ことのヒントになる実例として、もうすぐ食物の野田先生と私の対談記事が冊子(見開き2ページ)で出ます!出ました!
文化情報工学が目指す「共創」のリアルな形が少し見えるんじゃないかなと思います。 課題の息抜きに、お茶でも飲みながらぜひ読んでみてください。 少しだけ課題に向き合う景色が変わるかもしれません。